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新旧小説とコミック・ゲームのレビュー。参考点数付。
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カテゴリ:小説/読物
  • 幸運の25セント硬貨/著・スティーヴン キング、訳・浅倉 久志(740円・新潮社)
    [ 2007-05-14 00:25 ]
  • 放浪の戦士(1)-デルフィニア戦記/茅田砂胡(680円・中央公論新社)
    [ 2007-05-01 18:05 ]
  • 麦ふみクーツェ/いしいしんじ(700円・新潮社)
    [ 2007-04-16 20:43 ]
  • しゃばけ/畠中恵(540円・新潮社)
    [ 2007-04-11 22:11 ]
  • 模倣犯(一)~(五)/宮部みゆき(新潮社・620円~820円)
    [ 2007-04-03 23:25 ]
  • 平面いぬ。/乙一(620円・集英社)
    [ 2007-03-24 19:15 ]
  • 馬追い旅日記/椎名誠(580円・集英社)
    [ 2007-02-08 22:23 ]
  • 逆転世界/クリストファー・プリースト・著、安田均訳(987円・東京創元社)
    [ 2007-02-03 19:13 ]
  • 火車/宮部みゆき(900円・新潮社)
    [ 2007-01-28 17:16 ]
  • タイスの魔剣士・グイン・サーガ111/栗本薫(567円・早川書房)
    [ 2007-01-25 19:22 ]
幸運の25セント硬貨/著・スティーヴン キング、訳・浅倉 久志(740円・新潮社)
誰の中にもあるプチ邪悪

自由に読めるホラー短編集
本作品は、モダン・ホラーの帝王と呼ばれるスティーンブン・キングの短編集です。本来は「第4解剖室」という作品集と合わせて一冊の本だったようで、こちらは後編に当たります。ジャンル的には短編ホラー集という風になるでしょうか。バラエティ豊かな「恐怖」が7編に渡って味わえます。

スティーブン・キングという世界観
僕が思うにスティーブン・キングの作品は大体低俗で反社会的、且つ悪趣味です。これはもう、作者本人が「そんなひと」だと思うのですが、これだけでは単なる猟奇趣味のB級作家です。キングがB級に留まらないのは、そのどうしようもない俗悪さの中に、あけすけな人間の本性が現れている(……ような気がする)からだと思います。つまり、誰でも持っている人間の獣な側面を極めてオープンに見せてくれる鏡のようなものです。

サイコホラーにスプラッタ、古典的怪談まで
本作品では、短編ごとにホラーのジャンルが違います。「なにもかもが究極的」はSF的なある陰謀のお話、「L.Tのペットに関するご高説」は夫婦の決裂を描いてますが、結末に不気味な余韻が残ります。「道路ウイルスは北に向かう」「1408号室」はどちらかといえば古典的な怪談で、悪霊が出てきます。「例のあの感覚……」と「幸運の25セント硬貨」は1アイデアによる作品。前者はややシュール、後者はホラー要素の無いお話です。そして、僕が最もキングらしいと思ったのが血みどろスプラッターの「ゴーサム・カフェで昼食を」で、滅茶苦茶すぎて笑ってしまいましたが、娯楽性は一番でした。

キリスト教文化圏における恐怖とは
僕がいつも感じる外国ホラーの違和感は「絶対悪=サタン」の表現です。今回の作品でも、絶対的に邪悪な存在が出てきますが、そもそも日本人には絶対悪の観念が無いと思うので、ピンと来ないのです。対して、日本の恐怖の源は相対的なもので、「怨念」や「呪い」「無念」などが源になっていると思います。逆にその違和感が独特の面白さとも言えますが。

とにかく、一度でもスティーブン・キングの作品を読んだことのある方なら、いつものあの「感じ」が味わえると思います。それは極めてアメリカ的で、決して道徳的に褒められた内容ではありませんが、まあ、道徳的に褒められた内容のお話は大抵面白くないと相場が決まっていますので、こっそりお薦めします。

※この本は、Lazybugさん(from:Lzybug - Journal)に頂きました。まだ後2冊ももらってます。両方とも楽しみだなぁ。

幸運の25セント硬貨>AMAZON
読書ノート評価:58点
短評:この短編集がきっかけでもっとキングが読みたくなり、あの名作映画「ショーシャンクの空に」の原作(刑務所のリタ・ヘイワース)が収録された「ゴールデン・ボーイ」という文庫も買いました。また、読みましたら紹介したいと思います。
by kyura130 | 2007-05-14 00:25 | 小説/読物
放浪の戦士(1)-デルフィニア戦記/茅田砂胡(680円・中央公論新社)
「楽しさ重視」の軽快な冒険ファンタジー

元は少年なのになぜか美少女の姿になっている(らしい)超戦士と国を追われた王様を中心にお話が始まる壮大なファンタジー。調べてみた所、全18巻あるようで、1巻目は本当にさわりの部分だけ、という感じでした。

「難しいことを言わず、とにかく面白いものを」との作者の声が聞こえてきそうな設定やキャラクターが魅力的です。オープニングからストーリーは軽快にかっ飛んで行きます。変に設定を複雑にせず、「気さくな王様」である主人公ウォルは、「王様なのに気のいい兄ちゃん」という僕の期待通りの行動をし、美少女のリィは、戦士との勝負や風呂場での奔放な振る舞いなど、いい意味で健康的な少年漫画のようで素直に楽しめました。

実は、「異界から来た超戦士」と「王様(王族)」という設定は、僕がずっと読んでいるグインサーガと同じ導入部なのですが、あちらが陰や重さを感じる展開なら、こちらは本当に明るく軽快です。ただ、「この一線を越えると本当のライトノベル」という一線は越えておらず、上手い具合に品格も持っていると思いました。

ただ、最初に設定を一気に語らせすぎかな? とも思いましたが、ネットなどでの人気振りからすると、今後はどんどん加速していくと思いますし、そもそもファンタジーは全部読まないとちゃんと評価できないと思いますので、取り合えず点数は1巻のみの評価です。

※この本は、Lazybugさん(from:Lzybug - Journal))に頂きました。楽しい本をありがとうございました。

放浪の戦士(1)-デルフィニア戦記>AMAZON
読書ノート評価:69点
短評:初めて読んだライトファンタジーは、「ロードス島戦記」です。後日、再読した所、やはりちょっと厳しい感じがしましたが、デルフィニアは大人が読んでも十分楽しめると思いました。

短信:転職、祖母の葬儀などでバタバタしてました。次の就職までこれから3週間のインターバルがあるので、どしどし更新していきたいと思っています。
by kyura130 | 2007-05-01 18:05 | 小説/読物
麦ふみクーツェ/いしいしんじ(700円・新潮社)
合奏はすばらしい

音楽に打ち込む厳しい祖父と数学の証明に取り付かれた変人の父を持ち、子どもの時から背が高く、少し不器用で、「とん、たたん、とん」という麦ふみの音が聞こえる主人公<ねこ>が出会う人生の喜怒哀楽。全体的に抑えたトーンで、少々童話的且つファンタジックに描かれています。

<ねこ>が出会う出来事は、基本的に余り幸せなものでないことが多く、その他の登場人物も残酷な運命を辿ることがほとんどです。物語の舞台もはっきりと語られることはなく、登場人物もほとんどが象徴的なニックネームで紹介されます。恐らく、意図的に翻訳小説のようなスタイルをとることで、物語に寓話性を持たせているのではないでしょうか。<やみねずみ>など、必ずしも現実的なシーンばかりでないのもよりいっそう象徴的な印象を引き立てます。

一読した印象は、スティーブン・キング原作の映画「グリーン・マイル」でした。「ショーシャンクの空に」などでも共通しますが、喪失を伴うエピソードがほとんどでも、読後の印象はむしろ再生や誕生と言ったプラスイメージなのも似ています。多くの不幸から、幸せを見つけ出そうとするスタイルの為、時々、海が凪ぐように現れる<幸運>に感動を覚えます。盲目のボクサーのエピソードなんかが特に好きです。

また、音楽も重要なキーワードで、吹奏楽、特に打楽器に関する記述が多く、「なぐりあう子どものためのファンファーレ」など魅力的な曲名が登場します。打楽器中心の曲と言うと、ストラヴィンスキーの「春の祭典」みたいな曲でしょうか。リズムを人生になぞらえているようにも思え、小説からは音楽が聞こえるような気もします。

500ページ近い大作で、一筋縄ではいかない物語ですが、魅力的な登場人物や印象的なエピソードも多くあり、子どもは子どもなりに、大人は大人なりに「生きるとは」について考えられる懐の深い作品だと思いました。文章も平易ですんなり読めます。

この作品は、yurinippoさん(おうちしごと日報)に頂きました。面白い本をどうもありがとうございました。吹奏楽をやってた僕が心から共感した言葉がタイトルの「合奏はすばらしい」でした。また、吹奏楽をやりたいです。

麦ふみクーツェ>AMAZON
読書ノート評価:65点
短評:所々イターイ描写もありますので、そういうのがまったく駄目な方はご注意を。そういえば「グリーンマイル」の電気椅子のシーンは強烈でしたね。ねずみを踏み潰す所とかも……。
by kyura130 | 2007-04-16 20:43 | 小説/読物
しゃばけ/畠中恵(540円・新潮社)
キーワードは母性

以前から本屋で見かけて気になっていた作品ですが、相互リンク先のここからのLazymikiさんが絶賛されていたので、思わず手にとった一冊です。

作品は、江戸を舞台にした軽妙な捕り物帳風の物語。ただし、主人公の薬種問屋の若旦那の周りに妖怪が存在していると言うのがポイントです。しかも、妖怪はまるで友人や保護者のように振舞っている点が一風変わっています。白沢(はくたく)や犬神、屋鳴りなど、水木作品や伝奇小説などでお馴染みの妖怪が出てきますが、性格付けはかなりソフトで、ほとんど人間と言うのが面白いです。

もう一つ、主人公がかなりひ弱な点が変わっています。その出自にも秘密があるのですが、とにかく頼りない。ちょっとした事ですぐに寝込むし、力もない。妖怪や幼馴染の力を駆りながら、何とか話を進めていく感じです。

作者が女性と言うこともあり、この作品はやはり、男性が描く妖怪物とは一味違います。血なまぐさいシーンもありますが、全体に暢気なムードで柔らかい雰囲気。漫画にしたらさぞかし映えると思われるキャラクターで、妖怪の持つ暗さや怖さは余りありません。逆に、「頑張って」と声をかけたくなるような主人公の健気さを楽しむのがポイントでしょう。そういう意味で、これは母性を基礎にした物語だと思いました。妖怪も全体的に可愛く描かれています(挿絵も素敵な感じです)。

最後まで楽しく読めた一方、僕自身は物足りなさも感じました。若旦那は体は弱いのですが、お金持ちで二枚目という設定も、椎名的表現では「こんにゃろ!」という感じでしょうか。やはり、鬼太郎のように敵の妖怪と大立ち回りを演じて欲しいと言うのが「男の子」としての僕の率直な感想です。白沢や犬神も強いと言う設定の割には活躍シーンがほとんどなくてちょっと寂しかったです。

シリーズ化もされているようなので、今後の作品で若旦那の成長物語として世界が広がっていく予感がします。まずは、シリーズ一作目、特に女性にお薦めしたいと思いました。

しゃばけ>AMAZON
読書ノート評価:55点
短評:キュートな若旦那にキュン(死語)とときめく、これが正しい楽しみ方です! その点、男性読者はやや感情移入しにくいかも。もし、若旦那が女性だったら、また、180度違う印象になったでしょう。そういえば、ブレイブストーリー(宮部みゆき)も同じ母性の物語だった印象があります。
by kyura130 | 2007-04-11 22:11 | 小説/読物
模倣犯(一)~(五)/宮部みゆき(新潮社・620円~820円)
正に圧倒的! 質・量共に怒涛のパワー

「なんだこれは?」と、第1部の途中で思いました。「これはヤバイ」とも。100Pを超えた途端、物語が物凄いスピードで加速し始め、一部ラストで放心しました。決してグロテスクではないのに、「ここまで書いていいのか」と、寒気を覚えるような描写。同時に、読者を飽きさせず、まるで小刻みに爆発して加速していくような場面場面の面白さはエンターテイメントとしても最大級の面白さでした。しかし、ここまでなら「火車」と同級。第2部から、宮部氏は未知の領域に驀進し始めます。

物語は、連続婦女誘拐殺人事件が、警察・被害者・犯人の側から群像的に描かれます。しかし、群像と言ってもそれぞれのパートで普通の本一冊分位はあるので、同じ物語が複数の視点で描かれていると言ったほうがいいかもしれません。とにかく、この物量には圧倒されます。

2部では犯人の生い立ちから犯行までが描かれます。正直、読み始めてみると一部に比べ(時間軸も戻るので)もどかしさを感じました。しかし、一部で加速した「読みたい気持ち」は簡単には止まりません。そして、徐々に練り上げられていくクライマックスはやはり圧巻。人間の光と影が鮮やかに描かれます。読み進めるのが勿体ないくらいスリリングな「対決」シーンです。この辺の物語のためと放出のコントロールが見事です。

3部は完結編とも言える内容で、普通なら2部で終わっているお話がさらに一回転します。そして明かされる模倣犯の意味。それは表面的な意味合いを越えて、犯人を貫くある一撃になります。3部には展開的に物足りない部分もありますが、とにかくページを繰る手が止まらないのは同じです。この5日間で、夜11時から3時まで読んだ日が3日ありました……。

とにかく圧倒的なエンターテイメントでありながら、非常に深遠なテーマに深く切り込んでいる点で稀有な作品だと思いました。いわく「悪」とは何か。純粋な「人間の悪意」とは何なのか。これは現代日本を覆っている言葉にできない「不幸」と同じ源を持つものと思えてなりません。作者は、「他者とは違うと思いたい英雄願望」だと看破していましたが、ヒトラーやポルポト、ジョン・レノンを射殺した男や麻原彰晃など、確かに人類を揺るがした悪の根源とはこんなものかもしれません。ひょっとすると、僕達は人と違うところではなく、同じ所を探すべきなのかも知れないとも思いました。もっと根源的な共通点を。

最初の設定は重く感じますが、その先に底の見えない広大な世界が広がっています。軽い読書には向きませんが、宮部氏の筆力に身を任せて垣間見る人間の邪悪と聖なる部分は全ての人にとって何かしらの意味を持っていると思います。

模倣犯(一)>AMAZON
読書ノート評価:94点
短評:久しぶりに娯楽性とテーマの両方に満足でき、しかも疾走感のある読書時間を堪能できました。こういう本に出会うと、あらゆる文系娯楽の中で、小説が最も優れていると思いますね。他の宮部作品も順次読んでいきたいです。
by kyura130 | 2007-04-03 23:25 | 小説/読物
平面いぬ。/乙一(620円・集英社)
切ない現代ファンタジー短編集

この作品は、yurinippoさん(おうちしごと日報)に頂きました。作者の乙一氏の作品は初めてです。Wikipediaによれば、残酷さを強調した「黒乙一」と切なさや繊細さを強調した「白乙一」モードがあるらしいのですが、この作品は白乙一モードではないでしょうか。

基本的には、現代(近代?)を舞台としながら、ファンタジックな設定を導入し、寓話的で哀しげなお話が多かったです。タイトルの「平面いぬ。」は刺青の犬が動き出すと言うものです。また、「はじめ」というお話は自分たちが作り出した都市伝説的人物が妄想として動き出すもの。全体的に「命の無いもの与えられた命」を通じて、人間の喜び悲しみを描写しています。

乙一氏のことはほとんど存じませんが、どうも人間のタイプが少し似ているような気がしました。たまに作者の思考とシンクロしてしまい、話の筋よりそちらの方が気になることがありますが、今回がまさにそうでした。「BLUE」という人形が動き出すお話は、どのように話が落とされるか、ハラハラしたり。

全体的には洒脱なイメージで、奇抜な設定の割りに読みやすい内容です。ちょっと乙一氏が作り出した「特別な窓」を通じて不思議な乙一ワールドに触れられます。

平面いぬ。>AMAZON
読書ノート評価:58点
短評:「はじめ」と「BLUE]が印象的でした。「平面いぬ。」の家族の運命はやり過ぎなような気もします……。
by kyura130 | 2007-03-24 19:15 | 小説/読物
馬追い旅日記/椎名誠(580円・集英社)
正真正銘椎名氏の日記です

スーホの白い馬という話をご存知でしょうか。僕の小学校時代の国語の教科書に乗っていたので、同じ年代の方でしたら割と知っている方も多いかもしれません。話の大筋は、速くて賢いスーホの白い馬が、ある時王様に取り上げられてしまうのですが、白い馬は自力でスーホの元に逃げ帰ってきます。しかし、その時に弓に射られ、絶命してしまう悲しいお話です。確か、死んだ白い馬から馬頭琴という楽器が生まれた・・・というオチだと記憶しています。

この馬追い旅日記には、その白い馬のお話から刺激を受けた椎名氏が、映画「白い馬」を完成させるまでの舞台裏が綴られています。実際に、「スーホの白い馬」は映画では劇中劇になっており、モンゴルで生きるある家族の物語が主なストーリーです。

さて、肝心の本の内容ですが、本当に「多忙な作家の日記」であり、それ以上でもそれ以下でもありません。小説的な落ちもないですし、面白そうな人物が現れても突っ込んで描写されることもありません。本当に淡々と「映画を撮った」「プロデューサーともめた」「小説を書いた」「飯を食った」「小説の選考会に出た」ということが書かれているだけです。

文章は軽いのですが、ひきつけるものがなく、僕も読了まで3ヶ月もかかりました。椎名氏のファンであることはもちろん、「白い馬」の映画の舞台裏に興味があり、且つ、作家の日常に興味がある、ということが面白く読める前提条件でしょうか。

余り積極的に人に薦められる本ではありませんが、いつもの椎名節は堪能できるので、ファンであれば消極的にお薦め(?)します。個人的には、途中の一文「この店は、冷やし中華を年中売ることにしたらしい。それは素晴らしいことだ」という内容のフレーズがなぜか印象的です。

馬追い旅日記>AMAZON
読書ノート評価:35点
短評:この作中で「アドバード」の映画化の話があるのですが、どうなったんでしょう? 実は最近、椎名SFが映画化されるという噂も聞いたことがあるのですが。
by kyura130 | 2007-02-08 22:23 | 小説/読物
逆転世界/クリストファー・プリースト・著、安田均訳(987円・東京創元社)
麗しきSF世界

その世界の人間の年齢はマイル(距離の単位)で現されている。なぜか?
彼らが住む都市は、常にあるポイントを目指して移動しないといけない。それはなぜか?
彼らの世界では太陽や大地を始め、色んなものが歪んで見える。いったいどうしてだろう?

逆転世界は、上記の謎を5部構成で解き明かしていくSFサスペンスとでも言うべき作品です。一見突飛な設定ですが、徐々にその必然性が明らかにされていきます。レールを敷いて、巨大な都市を移動させる人々、そこには奇妙な秩序があって、整然と作業が行われていきます。この光景を想像して、ワクワクできれば、約420Pが一気に読めてしまいます。

僕はSFは好きですが、サスペンスなどのジャンルに比べると、かなり読書量が少なく、すぐに思い出せるのは、フィリップ・K・ディックや以前に紹介したハイペリオン渚にて、紹介はしてませんがシーフォートシリーズや「次の岩に続く」といった作品、後は椎名誠作品や日本のライトなSFぐらいです。そういった作品と比べても、本書は確実に読みやすい作品です。5部構成で短く区切られているからかも知れませんが、SF的設定以上に人間ドラマを大事にしているからではないでしょうか。ラストの寂寥感はSF世界独特のもので深く印象に残りました。

もちろん、軽いミステリー専門の方にはお薦めしにくい部分もありますが、ゆったりとSFの魅力を楽しむのにぴったりの一冊だと思いました。

この作品は、atomさん(テレビゲームあれこれ日記)に頂きました。本当にありがとうございました。

逆転世界>AMAZON
読書ノート評価:67点
短評:アイデアの核はSFですが、それ以外は合理的な説明があるのでスッキリしました。主人公がちょっと可哀想な気が……。
by kyura130 | 2007-02-03 19:13 | 小説/読物
火車/宮部みゆき(900円・新潮社)
いわば本格サスペンス。傑作です

今更といえば余りに今更ですが、本書を読み終えて「これぞ本物のサスペンス小説」という思いがこみ上げてきました。僕自身、宮部氏の実力を読み誤っていたという気もします。クレジットカードが作れないことをきっかけに失踪した女性を追って、細かな手がかりを手繰り寄せて真実にいたる道程がなぜこんなに面白いのか。派手な展開こそ無いものの、無駄のない展開で、例えは変かも知れませんが、到底登れないと思っていた山に着実に登っていく快感がありました。血肉の通った人物の描写も見事です。

物語のテーマはクレジットカード・ローン破産の悲惨さとその「日常性」。約15年前の作品なので、やや時代設定が古くなってしまってますが、誰もがつまづく可能性があるローン・クレジットの罠が描かれています。僕自身、社会人になりたての頃に背伸びして車をローンで買った経験がありますが、とにかく毎月の固定費が増える息苦しさというのは独特の苦しさがあります。「軽い気持ちで組んだローンが日々の生活に暗い影を落とす」--先ごろ利息のグレーゾーンが話題になり規制が強化されましたが、まさに今の社会に相応しいテーマと言え、身近で興味がつきません。

毎度おなじみWiki参照の知識で恐縮ですが、サスペンス=読者の不安感を煽るものと簡単な説明があります。そういう意味では、このジャンルのど真ん中に位置するのではないでしょうか。ミステリーに本格ミステリーというジャンルがありますが、これはまさしく、奇抜な手やホラー要素のない本格サスペンスです。関西人の僕には、大阪や三重の風景が楽しかったです。余談になりますが、物語のキーワードの一つのあの建物も近年なくなってしまいました。バブル直後の時代感も懐かしい限りです。

最後になりますが、この作品を贈ってくださったyurinippoさん(おうちしごと日報)に謹んでお礼を申し上げます。率直に言って「新たな金鉱(宮部金鉱)を見つけた!」気分です。本当にありがとうございました。宮部作品はほとんど読んでいないので、有名どころからたどってみようと思います。

火車>AMAZON
読書ノート評価:88点
短評:所々にゲームの描写があって、その的確さに笑いました。さすが当代きってのゲーマー作家です。また、このブログを書いていて本当に良かった、と思いました。自分ひとりでは読書の幅はあまり広がりませんので。
by kyura130 | 2007-01-28 17:16 | 小説/読物
タイスの魔剣士・グイン・サーガ111/栗本薫(567円・早川書房)
面白さの質が変質

ブログ開設後、ちょうど100作目の紹介はやはりというか「グインサーガ」の第111巻「タイスの魔剣士」です。最近「グインサーガ」は、ほとんど2ヶ月に1冊のペースで出版されているので、キリ番(きりのいい番号)になる確率は一番高いと思ってましたが、週間漫画のコミックスより早いペースで刊行されている事実は驚異的です。

一読して、非常に面白かったのですが、何だか釈然としない気持ちが残ります。それはなぜか? 恐らく、僕が期待する面白さと作者が提供する面白さの質がズレているからです。今回は作者いわく「少年ジャンプ」だそうで、補足すると「天下一武道会(ドラゴンボール)」です。無名の戦士(と偽装している主人公・実は王様で超戦士)が闘技場で強敵を次々ねじ伏せていく展開です。

僕なりの理解では、グインサーガの面白さは、長大な物語の中で変転する登場人物の運命の行方だと思っているのですが、ここ最近は非常に刹那的というか、もっとはっきり言えば「思いつき」な感じがします。「面白かったんだから、四の五の言うな」と言われるとそうなのですが、そういう「面白さ」を作者は求めていたのか? と、しばし悩んでしまいます。どうも肩の力を抜いて楽に書いているようにしか思えません。

実は、この「天下一武道会」的展開は、過去にも同じ展開があります。その時は、豹の頭を持つ異形の戦士が一国の王に成り上がって行くために必要な展開で、非常に楽しいエピソードでした。ただ、今回はさっさとここを飛ばしてもあまり支障がないように思うので、明らかに寄り道です。作者が自分の作ったパターンを繰り返すのは、悪いことばかりではありません。しかし……。

こういう釈然としない思いを飲み込みながら、ますます先が見えないグインサーガ。完結したら一巻から読み直そうと思ってますが、果たして、その日は来るのでしょうか?

タイスの魔剣士・グイン・サーガ111>AMAZON
読書ノート評価:55点
短評:何度も書いてますが、20巻ぐらいまでは本当に重厚な小説でした。あえて言えば、最近の展開は、「いもたこなんきん(NHK朝ドラ)」みたいです。
by kyura130 | 2007-01-25 19:22 | 小説/読物