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豪華だが真剣勝負ではないオールスター戦
~'06秋のホラー・サスペンス特集(10) 村上龍の編集した複数作家による短編ホラー集です。とにかく、作家陣が豪華です。村上氏自身を始め、村上春樹、山田詠美、椎名誠、原田宗徳、景山民夫、森瑤子、連城三紀彦、吉本ばななという錚々たる顔ぶれです。ただし、書下ろしは景山民夫氏のみで、他の作家はすでに発表済みの短編から集められています。 僕も連続でホラー・サスペンスを読んでみて「恐怖とは何か」を考えさせられましたが、やはり根本は消滅=死の恐怖だと思いました。人間が不快に感じることは、悉く死につながっており、その度合いが強いほど恐怖心という危機回避本能が働くのではないでしょうか。ホラーやサスペンス小説は、安全が保障された場所から、死を覘き見る興味、生と死のギャップを楽しむ物なのかな、と思います。 この一冊は、短編ホラー集とは銘打ってますが、非常にホラーの捉え方が多彩、あるいは曖昧です。僕の基準でホラーだと思うのは、一風変わった学校の怪談を語る「鏡/村上春樹」、物に憑いた怨念が引き起こす悲劇「植えたナイフ/原田宗徳」、霊視者の困惑をややコミカルに描写する「葬式/景山民夫」ぐらいです。一方、サスペンス的な要素が濃いのは、官能的な雰囲気で記憶喪失の謎が語られる「ひと夏の肌/連城三紀彦」、エレベーターでの密室劇「箱の中/椎名誠」、過激なSM倶楽部の恐怖を描く「ペンライト/村上龍」です。 残り3名は女性作家ですが、「桔梗/山田詠美」は大人社会の恋愛模様を哀しみを持って見つめた内容ですし、「海豚/森瑤子」はイルカを食べたことに対する罪悪感の記憶、「らせん/吉本ばなな」に至っては、完全にいつものばなな節の恋愛小説です。 「ペンライト」などは、村上氏の作風である非常に不快&えげつない表現がありますが、全体的にそれほど怖くはありません。それぞれの作家は一時代を築いた方ばかりなので、決して途中で投げ出すほど退屈ではありませんが、かといって最高の作品と言うわけではなく、せいぜい「ホラー入門」と言った位置づけではないでしょうか? その作家のファンなら興味深く読めるかも知れません。 ところで、意外と恐ろしい恐怖が「退屈」だと思うのですがどうでしょうか。誰にも相手をされず、自分でやりたいことも、興味も無い。これって、死そのものだと思うのですが……今後もそういう恐怖的小説に出会わないことを願っています。 ('06ホラー・サスペンス特集・了) <魔法の水>AMAZON 読書ノート評価:55点 短評:それぞれ作風は全く違いますが、作品のクオリティで言えば、綺麗に揃っている気もします。でも、吉本ばなな氏の小説をホラーでくくるのは無理がある気が……。
by kyura130
| 2006-11-18 09:54
| 小説/読物
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